自分らしく“ものだけじゃない価値”を届けたい

2011年の春。実家のある北広島町へ舞い戻った僕は、両親の勧めもあり実家の一角を借りて菓子製造の許可を取り、無店舗型のお菓子づくりを始めた。
道の駅で販売してもらうためにつくり始めたのが、地元の卵を使用したロールケーキとプリン。いつしか小さな噂になり、地元の方々に知られる商品となっていった。

そんな中、ある音楽家の友人が僕を“ロールくん”と呼び始め、周囲の人たちをどんどんと紹介してくれ、僕は瞬く間にいろんな場所で“ロールくん”と呼ばれるようになった。
その友人は、もともと音楽会社に所属し、CM音楽や楽曲の提供をしていたが、東日本大震災をきっかけに自分の道を求め、旅をしながら全国各地で音楽活動やボランティアをしていた。

彼が「おいしいおいしい」と目を丸くして食べ、いろんな人に紹介してくれたロールケーキ。卵をたっぷり使用した誰もが食べやすいロールケーキ。正直どこにでもありそうなロールケーキ。

僕を“ロールくん”と名付けた彼は様々なことを教えてくれた。
表現をすること。自分らしくあること。自分の看板商品を一つつくること。
でも彼は言った。「ロールケーキは君の人生の看板商品じゃないね。きっとこれから見つかるよ！」
看板商品になり得るものが生み出せる自信は正直なかった。そんな簡単なものじゃない。
でもそうやって信じてくれる人、楽しんでくれる人、たくさん繋がって出会ってくれる人がいる。僕は人に恵まれていると心から思う。

僕は、僕たちがつくり出すプロダクトで、いろんな人のコミュニケーションが生まれ、きっかけになり、会話の種となるような、“ものだけじゃない価値”をこれからも探し続けていきたい。そう思って毎日と向き合っている。
そのスタートになった“はじまりのロールケーキ”。
その後彼は病気を患い、去年若くして会えない存在になってしまったが、今も僕の心に生き続け、いつも力をくれている。
だから僕は僕らしく、食を通して表現する。

全国各地のデパートや食のセレクトショップなどでも取り扱われ、ユーイチさんの看板商品ともいえる「TOY JAM」は、「食卓であそぶおもちゃ」がコンセプト。2種類のジャムが層になったものや、スパイスのアクセントを効かせたものなど、洋菓子を思わせる絶妙な組み合わせや鮮やかな色合いが、食卓を華やかに彩ります。
英語の"Jam"に“詰め込む”という意味があるように、小さな瓶の中にはおいしさや楽しさとともに、ユーイチさんの遊び心がギュ〜ッと詰め込まれています。