専門機関の見解

数値基準に関して

電磁界の人への健康影響に関して,国際的な機関である世界保健機関(WHO)国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)は,数多くのさまざまな研究を総合評価して,見解やガイドラインを示しています。また,わが国も「電気設備に関する技術基準」により,電力設備から発生する電界と磁界の規制値を定めています。
電力設備や家庭電化製品から発生する周波数60Hzについては次のようになっています。

【電界】(日本では,送電線下地上1mで3kV/m以下に規制されています。)

機関名 名称 発行年 数値 説明
WHO 環境保健基準35 1984 10 kV/m この区域への立ち入りを
制限する必要はない。
ICNIRP 1Hz~100kHzまでの
電磁界ガイドライン
2010 8.3 kV/m 職業者
4.2 kV/m 一般人

【磁界】(日本では,電力設備の付近において200μT以下に規制されています。)

機関名 名称 発行年 数値 説明
WHO 環境保健基準69 1987 5,000μ T 有害な生物学的影響は
認められていない。
500μ T いかなる生物学的影響も
認められない。
ICNIRP 1Hz~100kHzまでの
電磁界ガイドライン
2010 1,000μ T 職業者
200μ T 一般人

※: 2010年,ICNIRPガイドライン(1998年)の低周波部分(1~100kHz)の改訂が行われました。経済産業省は,このICNIRPガイドライン(2010)の制限値を国の規制値として採用しました。

私たちの居住環境において,送電線などの電力設備から生じる電界や磁界の大きさは, WHOの見解やICNIRPのガイドライン,国の規制値に比べ十分に低くなっています。
(数値の比較については,身のまわりの電磁界を参照してください)

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健康影響評価に関して

電磁界の健康影響については,国内外の専門機関が,数多くの研究を総合的に評価し,「居住環境における電磁界については,人の健康に有害な影響があるという確たる証拠は認められない。」としています。

機関名 名称 発行年 見解
環境省 電磁環境の安全性に
関する調査研究報告書
1992   電磁界の生体影響に関して,WHO(世界保健機関)などの知見を修正する必要はない。
  居住環境の電磁界は,IRPA(国際放射線防護学会)の一般人の連続暴露ガイドライン値以下である。
経済産業省
資源エネルギー庁
電磁界影響に関する
調査・検討報告書
1993   現時点において,居住環境で生じる商用周波磁界により,人の健康に有害な影響があるという証拠は認められない。
  居住環境における磁界の強さはWHO(世界保健機関)などの見解に比べ十分低い。
環境省 電磁環境の健康影響に
関する調査研究
1995   電磁界の生体影響に関して,WHO(世界保健機関)などの知見を修正するに足る報告はない。
米国物理学会(APS) 送電線の電磁界と健康に関する声明 1995   送電線の電磁界とガンを関連付ける憶測は,科学的に立証されていない
全米科学アカデミー
(NAS)
居住環境における電磁界ばく露による健康への影響 1996   居住環境における商用周波電磁界が人体に有害な影響をおよぼす証拠は認められない。
RAPID計画
ワーキンググループ
ワーキンググループ報告書 1998   国際ガン研究機関(IARC)の発ガン性分類を用い,電磁界を「発ガン性があるかもしれない(グループ2B)」に分類することが,安全側の公衆衛生的判断である。
米国環境健康科学研究所(NIEHS) 商用周波電磁界へのばく露による健康影響に関するNIEHS報告
(米国RAPID計画の最終報告書)
1999   電磁界のばく露が何らかの健康リスクを提起しているということを示唆する科学的証拠は「弱い」。
全米科学アカデミー
(NAS)
NIEHS報告書に対する全米科学アカデミーの評価 1999   RAPID計画の結果は,電気の使用が公衆の健康障害を有するということを支持していない。
  RAPID計画で得られた知見は,1996年の全米科学アカデミーの評価と異なるものではない。
経済産業省
資源エネルギー庁
NIEHS報告書の結論に対する見解(電気新聞(7月15日)) 1999   1993年の「電磁界影響に関する調査・検討報告書」に示された結論について「特段の変更が必要であるとは考えていない」。
国際がん研究機関
(IARC)
人の発ガン性リスク評価に関するモノグラフ 2002   極低周波磁界は「発ガン性があるかもしれない(グループ2B)」
  静磁界,静電界および極低周波電界は「発ガン性については分類できない(グループ3)」
世界保健機関
(WHO)
・ファクトシート№322「電磁界と公衆衛生極低周波の電界及び磁界へのばく露」
・環境保健基準№238「極低周波電磁界」
2007   一般の人が普通に生活する上で,「電界」については健康上の問題はない。
  高レベルの磁界への短期的ばく露については,健康への悪影響が科学的に確立されており,国際的なばく露ガイドラインを採用すべき。
  長期的ばく露については,全体として,小児白血病に関連する証拠は因果関係と見なせるほど強いものではない。ばく露低減によって健康上の便益があるかどうか不明である。
経済産業省
資源エネルギー庁
電力設備電磁界対策ワーキンググループ報告書 2008   高レベルの磁界への短期的ばく露については,ICNIRPの国際的なばく露ガイドラインを採用する等法令面を含めた適切な対応を行なうべき。
  長期的ばく露については,因果関係の証拠が弱い。

世界保健機関(WHO)

国連専門機関の一つでジュネーブに本部をもち,190か国以上が加盟。
すべての人々に可能な限り高い水準の健康をもたらすことを目的として,公衆衛生の向上,医学研究の促進,環境問題などの保健衛生に関する事項全般の活動をしている。

世界保健機関(WHO)

世界保健機関(WHO)は,1984年に「環境保健基準35」で電界に関して,1987年には「環境保健基準69」で磁界に関する電磁界の健康影響について見解を示してきました。

環境保健基準№35(1984年)

1964年~1983年までに報告された生物学的研究や疫学研究など約260編の調査研究論文を評価した上で,「10キロボルト/メートル以下では立入りを制限する必要はない。」と結論づけています。

環境保健基準№69(1987年)

1964年~1986年までに報告された生物学的研究や疫学研究など約550編の調査研究論文を評価した上で,以下のとおり結論づけています。5,000マイクロテスラ以下では有害な生物学的影響を生ずることは示されていない。また,500マイクロテスラ以下では確立した生物学的影響が認められない。

環境保険基準No.69

環境保健基準№238「極低周波電磁界」およびファクトシート№322「電磁界と公衆衛生 極低周波の電界及び磁界への曝露」(2007年)

WHOは1996年に国際電磁界プロジェクトを発足し,電界に関する環境保健基準35,磁界に関する環境保健基準69以降の新しい研究結果を加えて,超低周波数(~100kHz)の電磁界の健康影響について再評価し,2007年6月に公表しました。
このプロジェクトには,多くの専門機関と54ヶ国以上が参加しています。
環境保健基準No.238は,WHOの中に組織された専門家グループ(タスクグループ)の健康リスク評価結果・推奨事項を取りまとめたもので,このタスクグループの検討結果に基づき,WHOがWHOの見解として示したものがファクトシートNo. 322です。

環境保健基準№238「極低周波電磁界」 ファクトシート№322「電磁界と公衆衛生 極低周波の電界及び磁界への曝露」

WHOの見解

WHOでは,総合的な電磁界の健康リスクを「急性影響」と「慢性影響」に分けて評価しています。

  • 急性影響: 強い磁界を浴びることにより,体への影響が急激に現れること。磁界により体内に誘導される電流に起因する「刺激作用」の存在が,科学的に明らかとなっている。
  • 慢性影響: 弱い磁界を日常的に浴びることにより,体への影響が現れること。様々な疾病に関する仮説があるが,科学的に明らかになっているものはない。
  健康リスク評価 WHOの推奨事項
急性影響 ◆高レベル(100μTよりも遥かに高い)での急性曝露による生物学的影響は確立されている。 ◆国際的なばく露ガイドラインを採用すべきである。(ICNIRPの一般公衆制限は200μ T)
慢性影響 ◆全体として,小児白血病に関連する証拠は因果関係と見なせるほど強いものではない。
◆2002年以降に追加された研究は,国際ガン研究機関(IARC)の「グループ2B」との分類を変更するものではない。
◆小児白血病以外の健康影響との関連性を支持する科学的証拠は,小児白血病についての証拠よりも更に弱い。幾つかの実例(すなわち心臓血管系疾患や乳がん)については,ELF磁界はこれらの疾病を誘発しないということが,証拠によって示唆されている。
◆曝露低減によって健康上の便益があるかどうか不明。
◆研究プログラムを推進すべき
◆開かれたコミュニケーション・プログラムの構築が奨励される
◆新たな設備建設の際,曝露低減のための低費用の方法が探索されることは良いでしょう。但し,恣意的に低い曝露限度の採用に基づく政策は是認されない

国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)

WHO(世界保健機関)の協力機関の1つで,1992年にIRPA(国際放射線防護学会)から独立した専門組織。
様々な種類の非電離放射線に関する影響を調査し,国際指針の作成や防護についての活動をしている。
1998年にIRPA(国際放射線防護学会)の50/60Hz電磁界の暫定ガイドラインに代る新しいガイドラインを発表した。
その後,2007年にWHOが公表した「環境保健クライテリアNo.238」をうけ,2010年には1998年ガイドラインの低周波部分(1Hz~100kHz)を改訂した。

時間変化する電界および磁界への曝露制限に関するガイドライン(1Hzから100kHzまで)(2010年)

2007年に公表された世界保健機関(WHO)の環境保健クライテリア238の考え方をもとに,1998年ガイドラインの低周波部分(1Hz~100kHz)を2010年に改訂した。

主な変更は,

・ 基本制限※を体内誘導電流密度から体内誘導電界に変更

・ 参考レベル※算定時の人体モデルを変更

・ 電磁界ばく露を制限する根拠として,従来重視されていなかった磁気閃光を考慮

これらの変更の結果,磁界のガイドライン値は,1998年に公表された100μT(50Hz)および83.3μT(60Hz)から,20μT(50Hz,60Hz)に見直された。

国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)

※: 基本制限とは磁界ばく露による人体の健康影響を防ぐために守るべき限度値であり,体内に誘導される電流や電界で示されることが多く,直接測定することができない。一方,参考レベルは基本制限に相当する電流や電界を体内に誘導する外部磁界および外部電界の大きさを表しており,人体モデルを用いた計算シミュレーションで求められる。外部磁界の参考レベルは,磁界測定器で容易に測定することが可能である。なお,人体モデルでは人体に最も強く電磁界が結合する最悪条件を想定している。このため,参考レベルに等しい電界や磁界が人体の一部に入射しても,基本制限を超えるとは限らない。

電界および磁界の曝露制限値(60Hzの場合の参考レベル)

60Hz 電界 磁界
職業者曝露 8.33kV/m以下 1,000μT 以下
一般公衆曝露 4.16kV/m以下 200μT 以下

IARCの発がん性評価に関する見解(2001年11月)

ICNIRPは,2001年のIARCの発がん性評価に対し,「実験的研究による根拠がない状況では,疫学データにより,電磁界のガイドラインを確立することは不十分である」旨の見解を出しています。

EMFと健康に関する疫学文献評論(2001年12月)

ICNIRPの疫学分科会は「EMFと健康に関する疫学文献評論(2001年)」の中でプール解析(2000年,スウェーデン)の結果について,「既知のメカニズムがなく,再現性のある実験的根拠がないため解釈は困難であり,更なる研究が必要である。」と報告しています。なお,本疫学分科会には,ICNIRPの委員(当時)であり,プール解析を実施したアールボム博士自身も参加しています。

ファクトシート: 時間変化する電界および磁界(1Hzから100kHzまで)への曝露制限に関するガイドラインについて(2010年11月)

ICNIRPは,ガイドラインの改訂にあたり,「低周波磁界への長期ばく露が小児白血病のリスク上昇と因果的に関連することについての既存の科学的証拠は,ばく露ガイドラインの根拠とするには非常に弱い,ということである。したがって,表面電荷の知覚,神経および筋組織の直接刺激,網膜閃光現象の誘発が,唯一の,十分に確立された健康への有害な影響であり,指針の根拠として利用できる。」と報告しています。
なお,ICNIRPの委員として,スウェーデン カロリンスカ研究所のマリア・ファヒティング博士も参加しています。

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国際ガン研究機関(IARC)

国際がん研究機関(IARC:International Agency for Research on Cancer)とは,世界保健機関(WHO)の専門機関であり,化学物質や喫煙などによって及ぼされる発がん性のリスクについての調査・研究と,がん対策を推進する機関です。

2001年6月 IARCは,WHO国際EMFプロジェクトの一環として「静的および極低周波(ELF)電磁界の発ガン性」の評価を行いました。その結果,

○商用周波磁界は,「発ガン性があるかもしれない」 (グループ2B)
○商用周波電界は,「発ガン性について分類できない」 (グループ3)
○静電磁界は,「発ガン性について分類できない」 (グループ3)

と評価しました。
評価結果は,400ページ以上の「モノグラフ」にまとめられて発行されています。

IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans のホームページ参照

国際ガン研究機関(IARC)による発ガン性評価(経済産業省「電磁界と健康(改訂第17版)」より抜粋)

IARCによる発がんハザード分類

発がんハザードの分類及び分類基準注1) 既設分類結果[1013例]注2)
グループ1:発がん性がある
人への発がん性を示す十分な証拠がある場合や限定的でも動物への発がん性を示す十分な証拠と発がんメカニズムに強い証拠がある場合に用いる
カドミウム,アスベスト,ダイオキシン類の一種(2,3,7,8-TCDD),たばこ(能動,受動),アルコール飲料,ガンマ線,エックス線,紫外線,太陽光,ディーゼルエンジン廃ガス,大気汚染,粒子状物質(大気汚染),PCB,加工肉,ベンゼン  [他を含む120例]
グループ2A:おそらく発がん性がある
人への発がん性を示す証拠は限定的であるが,動物への発がん性を示す十分な証拠がある場合や人で不十分でも発がんメカニズムの証拠が強い場合などに用いる
鉛化合物(無機),クレオソート,アクリルアミド,日内リズムを乱すシフト労働,理容・美容労働,赤肉,高熱の揚げ物作業,熱い飲み物  [他を含む82例]
グループ2B:発がん性があるかもしれない
人への発がん性を示す証拠が限定的であり,動物実験での発がん性に対して不十分な証拠や限定的な証拠がある場合や,人で不十分でも動物への発がん性を示す十分な証拠がある場合などに用いる
クロロフォルム,鉛,漬物,ガソリン,ガソリンエンジン廃ガス,ドライクリーニング労働,超低周波磁界,無線周波電磁界  [他を含む311例]
グループ3:発がん性を分類できない
人への発がん性を示す証拠が不十分であり,上の条件に該当しない場合に用いる
コーヒー,カフェイン,原油,水銀(無機),お茶,蛍光灯,静磁界,静電界,超低周波電界  [他を含む500例]

注1)分類基準は分類の基本的な考え方を説明したものです。

注2)表中の分類結果は2019年9月23日時点のものです。この分類は新しい証拠をもとに変わることもあります。

評価結果の意味に関する注意事項

(1)その物質や環境ががんの原因となるかどうか,あるいはその潜在性の有無に関する科学的な証拠の強さ(確実さ)を評価して分類したもの。

(2)がんの引き起こしやすさを評価したものではない。

米国RAPID計画

米国RAPID計画とは,米国エネルギー政策法に基づき,1993年から6年間,約6,000万ドルの費用をかけて,電磁界に関する調査研究と広報活動を実施した国家プロジェクトです。
(RAPID=Research and Public Information Dissemination;研究と公衆への情報伝達)

経緯

1979年,米国の疫学者ウェルトハイマー氏とリーパー氏が,電力線近傍に住む子供の白血病が多いとする疫学研究を発表して以来,多くのマスメディアがこの問題を取り上げるようになり,電磁界の健康影響に関する社会的懸念が高まりました。
このような背景から,米国議会は,電磁界と人の健康影響との因果関係に決着をつけることを目的に,研究プロジェクトの実施を決定しました。

プロジェクトの目的

1. 電磁界の健康影響に関する生物学的研究と,電磁界の測定・特性の解明・管理などを目的とする工学的研究を通じて,健康影響の調査に焦点を絞った研究の実施

2. パンフレットの作成,広報活動,一般大衆とコミュニケーションをとるための電磁界情報電話サービスを通じた,情報の収集編さん及び伝達

3. 健康影響評価,電磁界曝露から生じる危険性の評価に対する証拠の強さを評価するための調査データの分析

RAPID計画における健康影響評価の流れ

電磁界の健康影響に関する疫学研究および動物,細胞研究の結果

RAPID計画のもとで,電磁界の健康影響について評価した3種類の報告書が公表されています。

ワーキンググループ報告書

米国RAPID計画の一環として,1998年6月,専門家により構成されたワーキンググループにより,これまでに報告された電磁界の健康影響に関する研究結果について再評価が行なわれ,同年7月に報告書の全文が公表されました。

ワーキンググループ報告書

◇報告書の結論

電磁界を「発がん性がある可能性がある(グループ2B)」に分類することが,安全側の公衆衛生的判断である。

【説明】

発がんの可能性の程度分類を目的として,国際がん研究機関(IARC)の発がん性評価手法を用い,メンバーの投票により結論を導きました。
その結果,電磁界の健康影響について,多くの生物学的研究(動物実験・細胞実験)では否定的な結果が示されたものの,小児白血病および成人の慢性白血病に関する疫学研究結果を重視し,電磁界を「発がん性があるかもしれない(Possible Carcinogenic to humans)」に分類することが,安全側の判断であるとしました。

《国際がん研究機関(IARC)の区分と今回の投票結果》

分類 分類の説明 IARCの分類事例 今回の投票結果
グループ1 発がん性がある
Carcinogenic to humans
タバコ,酒,ダイオキシン 0
グループ2 A おそらく発がん性がある
Probably Carcinogenic to humans
紫外線,ディーゼル排気 0
B 発がん性があるかもしれない
Possible Carcinogenic to humans
コーヒー,漬け物,わらび 19
グループ3 発がん性については分類できない
Not classifiable as to its Carcinogenic to humans
コレステロール,お茶,カフェイン 8
グループ4 おそらく発がん性がない
Probably not Carcinogenic to humans
カプロラクタム 1

このような結論に対して,一部には,電磁界とがんとの関連性が認められたとする意見もありましたが,ワーキンググループのギャロ委員長は,プレスリリースの中で,

本報告書はリスクが高いことを示すものではない。電磁界のリスクは他の健康リスクと比べれば,かなり小さいものである。不確実性を減らすため,さらなる研究が必要である。

と補足しています。

全米科学アカデミー(NAS)のRAPID計画評価報告書

全米科学アカデミー(NAS)は,1999年5月,米国RAPID計画の活動と研究結果に対する評価報告書を公表しました。
これは,RAPID計画の実施を定めた1992年のエネルギー政策法に基づき,RAPID計画の下で実施された研究の技術的評価や情報公開に関する勧告を目的としてまとめられたものです。

全米科学アカデミー(NAS)のRAPID計画評価報告書

◇報告書の結論

RAPID計画の結果は,電気の使用が公衆への健康障害を有することを支持していない。

【説明】

全米科学アカデミーは,RAPID計画の下で実施された生物学的研究について,ほぼ全体にわたって電磁界の健康影響に否定的な結果であったとし,

技術的な観点からは,RAPID計画は,商用周波磁界が公衆の健康に関し,重大な悪影響を持つことはありそうにないという結論を強めた。

との見解を示しました。

また,全米科学アカデミーは,1997年,過去17年間に公表された500編以上の研究論文を詳細に評価し,その成果を取りまとめた報告書において,「電磁界への曝露が人の健康への障害となることを示していない。」との見解を示していますが,今回の報告書においても,

RAPID計画の知見は,1997年の全米科学アカデミーの評価と異なるものはない。

としています。

さらに,RAPID計画のワーキンググループ報告書において,国際がん研究機関(IARC)の発がん性分類が採用されたことに対し

グループ2(発がん性があるかもしれない)に分類したことは,その基本となる研究によって支持されていない結論を公衆に持ちこむ結果となった。

として,一般公衆に正しく理解されなかったことを「見劣りする結果であった」と批判しています。

米国環境健康科学研究所(NIEHS)報告書

米国環境健康科学研究所(NIEHS)は,1996年6月,米国RAPID計画の最終報告書となるNIEHS報告書を公表しました。報告書は,同時に米国議会に提出されました。

米国環境健康科学研究所(NIEHS)報告書

◇報告書の結論

電磁界の曝露が,何らかの健康リスクを提起するということを示唆する,科学的証拠は「弱い」。

【説明】
  NIEHS報告書では,これまで行われてきた電磁界の健康影響に関する生物科学的研究や疫学研究の結果について,以下のとおり評価しました。

生物学的研究の結果に対する影響
  動物や人や細胞で行われたほとんどのメカニズムの研究における全ての実験的な証拠は,環境レベルの極低周波電磁界の曝露と生物学的作用や病状変化との間の原因となる関連性を支持できていない。

疫学研究の結果に対する評価
  個々の研究からの支持は弱いが,曝露測定のいくつかの方法に関して,曝露増加に伴ってほぼ一貫したわずかなリスク増加のパターンを示している。

このような評価結果から,「電磁界の曝露が完全に安全であると認められないものの,真に健康に危険である確率は小さい。」との見解が示されました。
また,本報告書では,磁界曝露の低減について,以下のとおり提言しています。

積極的な規制への考慮を正当化するには不十分である。しかし,実質的には米国の全ての人は電気を使用しており,極低周波電磁界に日常的に曝露されていることから,曝露低減に向けた方法を公衆と規制された社会の両方に教育することを継続的に強調するような,受動的な規制活動は認められる。

このように,報告書では,法的な規制値の導入を否定しているものの,電磁界の健康影響に関する社会的懸念への配慮を求めています。

経済産業省

「電気設備に関する技術基準」に電力設備の磁界規制を追加(2011年)

経済産業省は,高レベル磁界への短期的な曝露によって生じる健康影響への対応として,電力安全小委員会での議論を踏まえ,ICNIRPが公表した改定ガイドラインに基づき,平成23年3月31日に「電気設備に関する技術基準を定める省令」を改正(施行は10月1日から),変電所,開閉所や変圧器,電線路などの電力設備から発生する磁界値を200μ T以下とする規制を導入しました。

国の規制値
電界〔kV/m〕(キロボルト/メートル) 3
磁界〔μT〕(マイクロテスラ) 200

電力設備電磁界対策ワーキンググループ報告書(2008年)

この報告書は,世界保健機関(WHO)が公表した環境保健クライテリア№238およびファクトシート№322の考えに沿って,国内外の研究や国際的な動向も踏まえ,日本における磁界規制のあり方について議論が行なわれた結果が取りまとめられたものです。

電力設備電磁界対策ワーキンググループ報告書(2008年)

磁界による健康リスクについて
短期的な健康影響 長期的な健康影響
  WHOが指摘するとおり,100マイクロテスラよりはるかに高いレベルの磁界に,人の神経や筋肉を刺激したり,中枢神経系の神経細胞の興奮性を変化させるような影響があることは明らかである。   WHOでは,磁界と小児白血病とに関連する証拠の強さは,因果関係を確定できるほど強いものではないとしている。この結論は,これまでに様々な国で行なわれてきた健康リスク評価活動の結論である,「完全に影響がないとは断定できないが,現時点で因果関係を示す十分な証拠は認められない。」との結論と何ら変わるものではない。
  なお,しばしば懸念の対象とされる0.4マイクロテスラについては,「慢性影響の閾値は認められていない。」旨がWHO等でも述べられている。

上記のような磁界の健康リスクの認識に基づき,報告書では,国や電気事業者に対して次のような政策提言が行なわれました。

政策提言
短期的な健康影響 長期的な健康影響
  電力設備から発生する周波数の磁界について,ICNIRPが示す国際的なばく露ガイドラインの制限値(83.3μ T(60Hz))を採用する等法令面を含めた適切な対応を行なうべきである。

①更なる研究プログラムの推進
○磁界ばく露と健康影響との関係に不確かさが残っていることから,引き続き,その不確かさを低減させるため,産学官が協力して研究を推進すべきである。

②リスクコミュニケーション活動の充実
○磁界ばく露による健康影響に関わる正確な知識が国民に正しく伝わっていないことから生じる問題の解消には,リスクコミュニケーションの増進を目的とした,中立的な常設の電磁界情報センター機能の構築が必要である。
○幼稚園,学校等多数の子供が定常的に集まる場所等では,リスクコミュニケーション活動が特に重要である。電気事業者は,これら地域の近傍に電力設備を新たに設置する場合には,住民との合意形成に格別の努力を払うべきである。

③ばく露低減のための低費用の方策
○低レベルの電磁界による長期的影響については,因果関係の証拠が弱い。しかし,磁界レベルの低減に配慮することはリスクコミュニケーションの観点から意味がある。
○海外で行なわれている磁界低減方策は,わが国では高鉄塔化等により既に実施されており,電力設備から発生する磁界は既にかなり低いレベルにある。電気事業者は,このような取り組みを,今後の新たな設備設置の際にも可能な範囲で継続することが望ましい。既設設備に磁界低減対策を施すことまでは求めない。

環境省

環境省ホームページ「身のまわりの電磁界について」[PDF:1,218KB]