平成22年8月28日(土)開催 「郷原信郎氏 講演会」 講演要旨

 平成22年8月28日(土),島根県松江市の「くにびきメッセ」で,名城大学コンプライアンス研究センター長 郷原信郎氏を講師にお迎えし,「思考停止社会とコンプライアンス ~島根原子力発電所点検不備問題から何を学ぶか~」と題した講演会を開催いたしました。
当日は,約200人のお客さまにご来場いただき,当社の島根原子力発電所1,2号機の点検不備問題を教訓に,コンプライアンスのあり方について講演していただきました。単に法令やルールを守るだけでなく,実態に合ったルールをつくり,活用することの必要性についてお話いただきましたので,その要旨をご紹介します。

郷原信郎(ごうはらのぶお)氏

講師: 郷原信郎 ( ごうはらのぶお )

1955年,松江市生まれ。東京大学卒。東京地検検事。長崎地検次席検事などを経て,2008年郷原総合法律事務所(東京都)を開設。2009年より名城大学の教授とコンプライアンス研究センター長,総務省顧問などを兼任。2007年から約2年間,中国電力の企業再生プロジェクト諮問機関で委員長を務めた。

〔演題〕

「思考停止社会とコンプライアンス

~島根原子力発電所点検不備問題から何を学ぶか~」(要旨)

「遵守」にとどまらない「コンプライアンス」

 「コンプライアンス=法令遵守」と思っていませんか。このような考え方は誤りです。遵守という言葉には「つべこべ言わずに守れ」というニュアンスがあり,「なぜ守らないといけないのか」と質問する動きが封じ込められ,自分で考えること,議論することをやめてしまいます。このような作用を持った「遵守」という言葉が,「思考停止」という弊害をもたらします。
ルールを守ることは大切ですが,ルールをそのまま適用するとデメリットが生じることもあります。このルールは何を前提にしているのかを理解し,目の前のことに適応し,ルールを使いこなしていくことが必要です。法令や規則,マニュアルを守ったかということばかりに目が向くと根本的な部分に注意がいきません。問題が発生した場合も目先の解決にとどまってしまい,根本的な解決ができなくなります。
組織におけるコンプライアンスとは,「組織に向けられた社会的要請にしなやかに鋭敏に反応し目的を実現していくこと」ととらえるべきです。

・Sensitivity:社会的要請に対する鋭敏さ
・Collaboration:目的実現に向けた協働

 コンプライアンスとは,この2つの言葉の組み合わせで考えることができます。

「考えるコンプライアンス」への転換

 電力会社のような公益性の高い事業は,単なる「法令遵守」ではうまくいきません。
社会の要請にどう応えていくのか,「考えるコンプライアンス」に転換していくことが必要です。
また社会の要請は「安全」から「安心」へとトレンドが変化しています。何か問題があった場合,客観的に「安全」であるということだけではお客さまの信頼を確保できません。十分な情報を開示・説明し,「安心」を確保していかなくてはいけません。

中国電力のコンプライアンスへの取り組みと点検不備問題

 2006年の土用ダム問題をはじめとする一連の問題について,中国電力では「不正をしない意識・正す姿勢」「不正を隠さない仕組み・企業風土づくり」「不正をさせない業務運営」を再発防止対策として,コンプライアンス最優先の経営を推進してきました。隠すことより言い出すことができる仕組みづくり,業務実態と乖離した規則・規定を改めるなど,法令遵守から社会的要請に適応したコンプライアンスへの転換が徐々に浸透してきていたと思っています。
しかし,重要な視点が抜けていました。社員が縛られているという実感のない規則・規定については改めていく動機が働かないということです。今回の島根原子力発電所の点検不備問題は,まさしくそういう問題でした。改めて法令によって何が義務付けられているのか「棚卸し」をしてみて,実態に合わないものがあれば改めていく努力をしていかなければならないのです。

原子力発電所と地域社会とのコラボレーション

 企業活動は社会の環境に適応していかないといけません。今,地球温暖化の問題で原子力発電は世界的に見直されており,地球という大きな社会からの要請は「CO2削減」です。
このような状況にあって,広い意味でのコンプライアンスをどのように実現していくのかが,重要な課題です。
これからは,地域社会と原子力発電所を運営している中国電力との,本当の意味でのコラボレーションが求められていくのではないでしょうか。それが信頼に裏付けられた真の共生につながります。
本当の実態に基づいたルールをつくり,実情に合わなければ積極的に改めていく。そのルールの下できちんと業務が行なわれていることを,地域に対して情報開示して,説明していくことが必要です。
このような活動が真のコンプライアンスを実現し,それを通じて中国電力が,そして地域社会が未来に向かって進化していくことにつながるのではないかと思っています。

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