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技術研究・経済研究・知的財産
【研究成果】養殖採苗判断のための『カキ幼生AI画像検出アプリ』の開発
カキ養殖は広島県の水産業における主要産業であり、そのほとんどが広島湾内にてカキ幼生を天然で採苗している。ICT技術による採苗工程の効率化を目指して、広島県の実証事業である「ひろしまサンドボックス『スマートかき養殖 IoTプラットフォーム』」に参画し、幼生発生の検出とユーザー間での情報共有が可能な「カキ幼生AI画像検出アプリ」を開発した。
キーワード:カキ(牡蠣)、AI画像検出、アプリ開発
1.まえがき
広島県のカキ養殖は生産量全国1位(シェア約60%)であり、水産業における主要産業となっている。種苗の採取についてもほとんどが広島湾内で行われており、夏季においてコレクターとなるホタテの貝殻を浸漬して海中に浮遊しているカキの幼生を付着させることにより採苗を実施している(図1)。このように、種苗確保を天然に依存していることから天候等の影響によって幼生の発生量が少ない年には安定した採苗が困難となり、種苗の確保に苦慮することになる。また、水産業分野全般において、農業分野と比較してICT化が遅れているといった課題も指摘されている。
これらの課題解決に向け、2018年度から2020年度にかけて広島県の実証事業である「ひろしまサンドボックス『スマートかき養殖 IoTプラットフォーム』」(東京大学、シャープ、NTTコミュニケーションズ、ルーチェサーチ、内能美漁協組合、平田水産、セシルリサーチ)に参画し、採苗工程の効率化を目的としたカキ幼生検出手法の開発を行った。
2.カキ幼生検出手法の検討
検出対象である「マガキ幼生」の発生状況は降雨や風の影響により刻々と変化する。特に、幼生発生量の少ない年において適切な採苗のタイミングを逃さないためには、検出結果が迅速に得られる必要がある。
マガキをはじめとするカキ類の幼生は、他の二枚貝の幼生に比べて蝶番部分の膨らみ(アンボ)が大きいといった特徴がある。また、採苗に適したタイミングかどうかは、付着期のみに発現する「眼点」の有無を指標として利用することができる(図2)。
以上、検出結果をもとに迅速な対応が必要とされる点、および形態的特徴によって画像から識別が可能である点からAIによる画像検出を検討することとした。
3.AI によるカキ幼生の画像検出
カキ幼生の検出対象は「0:付着期眼点あり(殻長270μm ~)」、「1:付着期眼点なし(殻長270μm~)」、「2:大型(殻長210~270μm)」の3区分とし、AIにより検出されたカキ幼生は画像上で赤い枠に区分ごとのラベル付けをして表示される。
1,000枚以上の取得画像から各区分1,400個体以上の学習用データを用意し、AI画像検出モデルを構築して学習を行った。テストデータを用いて評価したところ、非常に高い性能での検出が確認できた(図3)。
4.カキ幼生AI画像検出アプリの開発
カキ幼生の発生状況を生産者間で共有できるツールとして、「カキ幼生AI画像検出アプリ」を開発した。
ユーザーは船上で、プランクトンネットにより海水をろ過したサンプルを採取し、アプリ内でサンプリング地点のGPSデータと時刻を記録する。デジタルカメラをスマートフォンと連携して、顕微鏡のようにサンプルを拡大撮影し、地点・時刻データを紐付けした画像をクラウド上のAI検出プログラムに送信する。画像1枚あたりの検出にかかる時間は1分程で、プログラムから得られた結果をアプリ内のマップ上に表示させることで簡単に幼生発生情報の共有が可能となる。また、各地点での撮影画像も詳細に確認できる仕様となっている(図4)。
5.あとがき
AIによる画像検出を手法として用いることで、カキ幼生の特徴的な形態を活かし、簡便・迅速で高精度なカキ幼生の検出および幼生発生情報の共有が可能となった。本検出手法は、広島県農林水産局水産課からの依頼に基づき、「ひろしまサンドボックス『スマートかき養殖IoTプラットフォーム』」終了後も継続して開発を進めており、2021年度より3年計画で広島湾内の漁協にて「カキ幼生AI画像検出アプリ」の実証試験を行っている。今後は、再学習によるさらなる検出性能の向上や採苗の妨げとなる海洋生物とカキ幼生を同時検出する機能の追加により、実用的なシステムの構築を進めていく。
また、本研究により習得したAI画像検出技術を海水利用プラントに障害を及ぼすムラサキイガイやフジツボ類などの付着生物幼生の検出技術へと応用することについても検討している。
中国電力株式会社 エネルギア総合研究所 化学・バイオグループ
西田 有理花
専門分野:生物
主な担当業務:農園芸、海洋付着生物対策関係
